軟体動物

ヒョウモンダコ

ヒョウモンダコ

 

ヒョウモンダコとは?

ヒョウモンダコは、マダコ亜目マダコ科ヒョウモンダコ属に属するタコです。このヒョウモンダコ属の代表には「ヒョウモンダコ」と「オオマルモンダコ」がいます。ヒョウモンダコは足だけが丸模様で、胴体はいびつな縞模様に近いのが特徴。逆にオオマルモンダコは足だけでなく全身がきれいな丸模様であるのが特徴。分類上は別のタコですが共通点も多いため、このページでは「ヒョウモンダコ」としてまとめて紹介していきます。

ヒョウモンダコとオオマルモンダコの違い
↑ヒョウモンダコ(左)とオオマルモンダコ(右)

 

ヒョウモンダコの身体的特徴

体長は10cm程度の小さなタコで、名前の由来にもなっているとおり豹のような模様をしているのが一番の大きな特徴です。体色は基本的には暗い茶色ですが環境に合わせて変幻自在。海底を這うように過ごしていることがほとんどであるため、その場所の岩肌の色に近い体色でいることがほとんどです。通常時は青い丸模様もそこまでは目立ちません。

しかし外敵に襲われそうになって興奮したときは、体色を鮮やかな黄色に変化させ、さらに青い丸模様もかなり鮮やかな状態に変化します。自然界にはなかなか存在しない色彩になので、突然変化したらビックリしちゃいますよね。毒を持つ生き物の中ではよくある「俺は毒を持っているぞ!危険だぞ!」というアピール。

 

↑最初は地味で薄い黄色の体色をしていますが、刺激を与えた瞬間に鮮やかな色に変化します

また私たちが持っている一般的なタコのイメージは「俊敏に泳ぐハンター」であるかと思いますが、実はヒョウモンダコはあまり泳ぐのは得意ではありません。基本的には海底を足で這うように移動して獲物を探します。またタコの代表的な武器である墨もほとんど吐きません(墨を吐くところを観察された事例はありますが煙幕の役割を果たせるほどのものではないそうです)。強力な毒と威嚇能力を持ったため、墨を吐いて逃げる必要がなくなり退化したのではないかといわれています。

 

ヒョウモンダコの生息域

ヒョウモンダコは温かい海を好む生き物で、本来は赤道付近の熱帯・亜熱帯の海に住んでいます。そのため日本では沖縄や小笠原諸島でのみその姿が見られました。しかし近年では温暖化の影響で日本本州付近でもヒョウモンダコは頻繁に目撃されるようになり、福井県や東京都でも一般的に見られるようになってきました。今後は東北地方の海にも進出していくことが予想されます。

ヒョウモンダコは基本的には浅い海の岩場を好みます。そのため子供が遊ぶような浅瀬の岩場でもヒョウモンダコは見られます。あまり俊敏ではないため通常は魚は狙わず、動きの遅いカニやエビを襲って食べています。

 

ヒョウモンダコの寿命と繁殖サイクル

ヒョウモンダコのサイクルは完全に季節と連動しています。寿命はちょうど1年間。4~6月ぐらいに誕生し、9月頃には相手を見つけて交尾をしてメスは産卵を行うようです。そこから6ヶ月以上メスは卵を抱いたままで生活し、また次の4~6月ぐらいに次の世代が誕生します。そこで親世代は息絶えてしまいます。丸1年でその生涯を閉じてしまうというのは短いように感じますが、ヒョウモンダコに限らず小型のタコはだいたいこれぐらいの寿命しかないそうです。

こういったサイクルでヒョウモンダコは生活しているため、必然的に夏は幼体であることが多いため目撃例が極端に減ります。9月ぐらいから成長して目視しやすいサイズになってくるため、そこから次の夏前までによく姿が見られるようになります。


↑卵を抱きかかえたメスのヒョウモンダコ。このまま6ヶ月ほど飲まず食わずで卵を守る。

ヒョウモンダコの幼体
↑生まれてまもないヒョウモンダコの子供

 

ヒョウモンダコの毒

さて、ようやく本題。人間に対しての危険性の解説です。ヒョウモンダコはその唾液の中にテトロドトキシンという強烈な神経毒を持っています。テトロドトキシンはフグの毒としても有名ですね。この毒は体内に入ると、まずは痺れやめまいの症状が現れ、次第に呼吸困難を引き起こします。日本では死亡例はありませんが、オーストラリアやニュージーランドでは実際にヒョウモンダコによって命を落とした人も少なからずいます。

ヒョウモンダコはもうひとつハパロトキシンという毒を持っているという情報もあります。このハパロトキシンは海中に散布して付近の獲物をじっくりと弱らせるというものらしいですが、調べてみるかぎりでは情報の信憑性はちょっとビミョウかと。いろんなサイトで「ヒョウモンダコがハパロトキシンを出す」という記載が見られますが内容がどれも同じであるため、ひとつの情報源から拡散しているものと思います。ハパロトキシンという物質自体の情報もほとんど出てこないため、そういった可能性もあるといった程度で考えていたほうが良さそうです。

 

ヒョウモンダコの危険を避けるために

基本的にはヒョウモンダコは臆病であるため自ら人間に寄ってくることはありませんが、浅瀬で不意に触ってしまったり、面白がってちょっかいをかけたりすると咬まれてしまうこともありえます。見かけた場合は絶対に触ろうとせずに速やかに距離を取りましょう。またヒョウモンダコの厄介なところは、咬まれても傷口が小さく痛みも少ないため咬まれたこと自体に気が付かないケースがあることです。浅瀬でめまいなど体調に異変があったときにはヒョウモンダコの可能性を疑ったほうがいいかもしれません。

万が一咬まれてしまった場合は、とにかくすぐに水から出て病院へ直行しましょう。傷口を洗ったり、血を絞り出してもあまり効果は望めません。また口で吸い出すのは二次感染の可能性があるため厳禁です。テトロドトキシンで命を落とす可能性があるのは呼吸麻痺。とにかくすぐに人工呼吸器のある病院へ行くのが一番の対策です。血清や解毒剤はありませんのでそこからは自然治癒に頼るしかありません。

ヒョウモンダコの毒は即効性があるためすぐに症状が現れます。逆に数時間経ってもとくに症状が現れない場合は、幸運にも毒が体内に入っていないと考えて差し支えありません。

ヒョウモンダコの毒と危険性

 

ヒョウモンダコは一応ペットとして飼える

人を殺せるぐらいの毒を持つ危険なヒョウモンダコですが、実はアクアリウムショップで観賞用として普通に購入することができます。価格は2000円~5000円ぐらい、5cm以下の小ぶりな個体が多く出回るようです。鮮やかな体色をしているのでそこそこ人気もあるようですね。ただしもちろん咬まれないように細心の注意は必要です。タコの牙は鋭いのでゴム手袋をしても安全とは言い切れません。飼育する場合は絶対に触らないことを前提としましょう。また前述したとおりヒョウモンダコの寿命は1年程度しかありません。大きく成長している個体であれば、そう長くは生きられないということは承知の上で飼育するようにしましょう。

 

ヒョウモンダコは食べてはいけない

これまでヒョウモンダコの毒は唾液腺の中に含まれていると考えられていて、あるYouTuberが唾液腺を除いた上で「ヒョウモンダコ食べてみた」といった動画をアップしたりしたこともありました。しかし最近の研究でヒョウモンダコの毒は筋肉や皮膚にも含まれていると発表されています。幸いこのYouTuberは毒に当たることはなかったようですが、非常に危険な行為であるいえるのでヒョウモンダコは食用にしないようにしましょう。

 
飼育しているヒョウモンダコの孵化シーン:

 

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危険生物

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危険生物ガイドブックの海洋版です。比較的子供向けの内容となっていて、磯でレジャーを楽しむときに気をつけたい生き物について生態を詳しく書いています。イモガイ、カサゴやカツオノエボシなどの紹介もされています。

危険・有毒生物 (フィールドベスト図鑑)

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人間の命に影響を与える危険生物400種類を解説している図鑑。陸の生物、海の生物、動物由来の感染症などにカテゴリーを分けて解説。

OKINAWA 海の危険生物 増補版

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沖縄に住む危険な生き物について詳しく取り上げている図鑑です。イモガイやウミヘビ、ゴンズイ、オコゼなどについてもその危険性が解説されています。

エクストラクター ポイズンリムーバー 強力型

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イモガイ

イモガイ

イモガイとは?

イモガイは、イモガイ科の貝類の総称です。日本だけでも約120種類の仲間が確認されています。

基本的にはサンゴ礁などがある温かい熱帯・亜熱帯の海に住んでいて、日本では沖縄・鹿児島、暖流が通る高知県・和歌山県・千葉県などで観察することができます。浅瀬から深海までその生息範囲は広く、海岸線の岩場などでもその姿を見かけることがあります。

イモガイ

 

イモガイの身体的特徴

イモガイは、大きさが大体10~20cm前後です。貝殻の形は分銅を横にしたような円錐型の形状で、螺塔があまりありません。これがサトイモの形にも見えるところからイモガイという呼称がきているようです。

貝殻の模様は種類や個体によって様々で、中には非常に鮮やかなものも多いのでコレクターには人気があったりします。

イモガイの貝殻は様々な模様をしている
↑イモガイの貝殻。綺麗な模様のものが多く、古代では腕輪などの装飾品に加工されていたことも。

 

吻は自分の体長と同じぐらいの長さまで伸ばすことができ、これによりかなり広角度に周囲の様子を探ることが可能です。

移動速度は極めて遅く、カタツムリが地面を這うようにゆっくりとしか進むことができません。そのため普段は岩場に隠れたり、砂の中に潜ったりして、獲物を待ち伏せする狩りのスタイルをとっています。口の中には吻があり、その先端には毒を含んだ銛のような武器を持っています。イモガイはこれを獲物に向けて突き刺し、毒を送り込んだ上で獲物を引き寄せます。そして大きな口で丸呑みにしてしまうわけです。

 

イモガイの生活と繁殖

基本的にイモガイは夜行性です。活動が活発になるのは暗くなった夜の時間帯。

イモガイは岩場に卵嚢を複数産みつけます。これは長い日数をかけて行われ、2週間で100近い卵嚢を産みつけるときもあるようです。この卵嚢には数千単位の卵が格納されており、これらはほかの貝類と同じくトロコフォア幼生期、ベリジャー幼生を経て成体へと成長していきます。

イモガイ卵鞘
↑イモガイの卵鞘

 

イモガイの食事と天敵

イモガイは種類によって食性に差があります。大きくはゴカイなどを食べる虫食性、貝類を食べる貝食性、魚を狙う魚食性の3つに分類されます。ここで危険なのは魚食性のイモガイです。以下このページでは魚食性のイモガイについて解説していきます。

捕食方法は前述したとおり。獲物を岩陰や土の下に隠れて待ち伏せし、不意を突いて毒針で攻撃して一気に丸呑みしてしまいます。自分と同じぐらいの大きさの魚でさえも丸呑みにしてしまうから驚き。口を大きく広げて獲物を取り込むかのように体内に運び入れていく様子には鳥肌が立ちます。

おぞましい狩りの方法を持っている生き物なので、一見して敵はいなそうですが、
実際にはカニなどの甲殻類がイモガイの天敵となります。
カニの甲羅に対してはさすがの毒針も無力なようで。
成す術もなく食べられてしまいます。

イモガイの顔アップ(左)、土の中に潜って獲物を待ち構えるイモガイ(右)
↑イモガイの顔アップ(左)、土の中に潜って獲物を待ち構えるイモガイ(右)

 

イモガイの人間に対しての危険性

イモガイの銛に含まれる毒は神経毒で、とてつもなく強力です。刺された魚や貝類はその毒で即死するぐらいです。

これは人間にとっても驚異的なもので、国内に生息するイモガイの中で一番毒性が強いといわれるアンボイナの場合は、その体内に人間30人を死に至らしめる量の毒を保持していると言われています。とんでもない貝ですね(汗)

実際にイモガイに刺される事故は報告されているだけで30件程度。そのうち8人が命を落としています(うち7人は未成年)。ただし、これはあくまで報告されている数字であって、サンゴ礁近辺で溺れ死んだ水難事故の中には、イモガイが原因のものが多く含まれていると考えられています。

沖縄ではイモガイのことを 『ハマナカー(刺されると浜半ばで死んでしまう)』と呼びますが、こんな呼び方が定着したということは、昔からそれ相応の犠牲者がいたということを表しているといえるでしょう。

イモガイの毒銛
↑イモガイの中でも危険性が高いアンボイナガイ(左)、イモガイの毒銛(右)

 

イモガイに刺されないために

危険な毒貝としての知名度が低かったイモガイですが、近年では危険な生き物を紹介するTV番組で取り上げられることも多く、見る者にインパクトを与える捕食方法が話題になってSNSで情報が拡散されることも増えました。幸いにも一昔前に比べて知名度は格段に高くなっています。

『岩場で遊ぶ際には危険な生き物がいる』 という情報共有がまず大事な一歩。特に子供のほうが致死率が高いので小さなお子さんを持つ家庭では特に注意するようにしましょう。

イモガイは本来、日本でも南のほうの暖かい海に生息する生き物ですが、近年の温暖化で熱帯の生き物はどんどん生息地を広げています。最近では天草のあたりでも存在が確認されてニュースになりました。いずれは日本のほとんどの沿岸でイモガイを見かけることになるのではないでしょうか。

とにかくこの形状の貝を見たら、不用意に触らないことです。イモガイは自分から動くことはほとんどなく、動いたとしても非常に緩慢です。こちらからちょっかいをかけなければ襲い掛かられることもありません。貝殻の模様が綺麗であることから何も知らずに触って攻撃されるケースが事故のほとんどです。

また、イモガイは危険を感じると身を貝殻の奥のほうまで引っ込めて隠れることもあります。中身のない死貝だと思って油断すると危険です。

気をつけたいのは、浅瀬で気付かずに踏んずけてしまうパターン。遊泳場になっているような砂浜にはまずイモガイはいないので気にする必要はありませんが、岩場に立ち入るときは靴やサンダルなどを履くようにしましょう。

また、よく似た形状の貝でマガキガイという食用の貝がいます。潮干狩りなどでこれと間違えてイモガイを触ってしまい事故に遭うケースも確認されています。一応マガキガイは貝殻の外側に特徴的な切れ込みがあるので判断はできるのですが、判断に自信がない場合はこの形状の貝には触らないほうが賢明です。

イモガイの捕食
↑魚を丸呑みにする途中(左)、完全に魚を体内に取り込んでしまった後(右)

 

イモガイに刺されてしまったら

毒銛には返しもついているので痛そうなイメージがありますが、実際には刺された直後は、蚊に刺された程度の痛みしかなく自覚がないことが多いようです。そして知らない間に深刻なレベルまで毒が回ってしまいます。

症状としては、徐々に刺された箇所の痛みが増していき、激痛レベルに。そして腫れが大きくなり、全身の痺れ、めまい、嘔吐、発熱が認められて、症状が重い場合には全身麻痺が起き、呼吸不全により命を落とすことも。

刺された、もしくは刺された疑いがあるときはすぐに陸に上がってください。そのまま海中にいると溺れてしまう可能性があります。もし刺された箇所が分かるならば、毒を口や吸引器で少しでも吸い出し、その箇所から心臓に近い位置をタオルなどで縛り、安静にしつつ病院に向かってください。

残念ながらイモガイの毒に対しての血清というものはありません。ですので人間の自然治癒力で毒が分解されるのを待つことになります。毒のピークは5~6時間後というので、それが済むまでひたすら耐えることになりますが、幸いイモガイの毒は、心筋や中枢神経には影響がありません。人工呼吸器によって呼吸不全のリスクさえ回避すれば命を落とすことはないそうです。

イモガイの毒と刺されてしまったときの対策

 

魚を毒銛で攻撃して丸呑みにするイモガイの動画:

 

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危険生物ガイドブックの海洋版です。比較的子供向けの内容となっていて、磯でレジャーを楽しむときに気をつけたい生き物について生態を詳しく書いています。イモガイ以外にもカサゴやカツオノエボシなどの紹介もされています。

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