サメとは?
サメは軟骨魚の中でエラが体の側面にある種類の総称です。サメは全世界で500種以上の仲間が確認されています。一般的にはその中でもホオジロザメやジンベエザメなどが有名ですね。
一口にサメといってもそのビジュアルや生態は様々で、体長は15センチ程度の小さな種から15メートルに及ぶ巨大な種(魚類としては最大)まで、体型は流線型だったり丸みがあったり平べったかったり、住む場所も近海だったり外洋だったり深海だったり、種としてのバリエーションは非常に豊富です。
↑映画「ジョーズ」で一躍有名になったホオジロザメ(左)と、魚類の中でも最大の大きさを誇るジンベエザメ(右)
サメの身体的特徴
1.鰭(ヒレ)
サメは基本的には尾ビレ・尻ビレを一基、背ビレを二基、胸ビレ・腹ビレを一対備えています。その大きさや形、配置はそれぞれの個体で違いがありますが、どのサメもこれらのヒレを持っています(※カグラザメ・エビスザメなどは例外で、背びれが一基しかない)。そのヒレはほとんどが薄くてそれでいて固く、流体の中を進むのに非常に適した形をしています。
2.体表
サメの有名な特徴のひとつは鮫肌と呼ばれるザラザラした肌。これは楯鱗(じゅんりん)と呼ばれるエナメル質の突起が無数についていて、これらが体表に水の幕を発生させることによって水の抵抗をなくし、泳ぐスピードを格段に高めています。シドニーオリンピックで話題になった競泳水着は、このサメの楯鱗を模倣して製造されました。その性能の高さから残念ながら使用禁止になってしまいましたが。
3.骨
意外に知られていないのが、サメは軟骨魚であるという点。サメは全身の骨が軟骨でできていて、柔軟かつ丈夫なその性質がサメの強靭な身体能力を生み出しています。ちなみに硬骨で形成されているのは顎の部分だけです。軟骨はまず化石にならないので、サメが死んだ後は顎と歯だけが化石として残ります。
4.顎(アゴ)
骨の項でも書いたとおり、サメの体の中では唯一の硬骨部分です。最大の特徴は、顎が頭蓋部分に完全に固定されておらず、柔軟な靭帯で吊るされたようになっていること。これにより咬み付くときに、前方に顎を大きく突き出す動きや、横方向にノコギリのように歯をこすり合わせる動きを実現しており、より獲物の肉を効率よく噛みちぎれるようになっています。
↑ホオジロザメの顎(左)、アオザメの顎(真ん中)、絶滅した古代種メガロドンの顎(右)
5.歯
サメの歯は種によって様々です。ホオジロザメのような海獣類を主食にする種は、肉を噛みちぎれるように大きな三角形をしています。アオザメのようなイカやタコをよく食べる種は、獲物を捕らえやすいように鋭くて細い歯が並んでいます。貝類を主食にするネコザメは平べったい歯を備えていて、それを摺り合わせて獲物を潰すように噛み砕きます。ジンベエザメの歯は小さな歯が無数に並んだやすりのような形状をしていて、小魚等を捕まえやすくなっています。
どの種の歯も、列単位でストックが奥に用意されていて、いま使っている歯が抜けると列ごと歯を入れ替えていきます。種によっては新しい歯列が再生するのに10日かからないものもいて、生涯で3万本以上の歯を使用するサメもいます。
↑ホオジロザメの正三角形の歯(左)、イタチザメの歯列(右)
6.嗅覚
サメは非常に嗅覚に優れた生き物です。鼻孔は常に新しい水を取り込み続けることができる構造になっていて、細かいひだ状で表面積が大きい感覚器(嗅嚢)を使って臭いを感知しています。よく耳にする「サメは海の中で数十キロメートル先の一滴の血を感知してやってくる」なんてのは、さすがに大袈裟な都市伝説ですが、生き物の臭いに関するセンサーが鋭いことには間違いありません。
特に人間の血よりも魚の体液に敏感だという実験結果が出ています。そのためスピアフィッシングなどで、傷ついた魚を腰に身につけたまま泳ぐのは非常に危険な行為だといえるでしょう。愛媛県で起きたタイラギ漁中のホオジロザメ襲撃事故は、タイラギの体液がサメを呼んだのではないかと言われています。
7.目
サメは嗅覚や磁場感覚に優れるために視力は低いと思われがちでしたが、実際にはほかの魚類と同等、もしくはそれ以上の視覚能力を持っています。プランクトンをまるごと吸い込むように食べるジンベエザメやウバザメ、海底で獲物を待ち構えるカスザメなどは、視力をそれほど必要としないためその目は小さいですが、積極的に動く獲物を狙っていくタイプのサメ(とくにアオザメやニタリなど)は非常に大きな眼球を持っています。光の明暗や色の識別も可能で、特に夜間時の採光能力は高くネコ以上のものを備えています。
サメの目には瞬膜という人間でいうまぶたのようなものがあります。獲物に襲いかかるときには目を損傷しないようにこれを閉じるサメが多くみられています。よくホオジロザメやイタチザメが獲物に咬みつく映像で白目をむいている姿が見られますが、これは白目になっているのではなく、瞬膜を閉じて目を保護している状態なのです。
↑左からイタチザメ、ネコザメ、ジンベエザメの目。一番右は瞬膜を閉じた状態のペレスメジロザメ
8.ロレンチーニ器官
サメはその鼻先に電流や磁場を感知する特有の器官、ロレンチーニ器官を持っています。全ての生き物は運動する際に必ず微弱ながら電気を発しています。サメはそれを感知して獲物を探し当てるわけです。しかしさすがにこの能力は遠方の獲物までを感知することはできません。あくまで近距離、岩場や砂の中に隠れている獲物を探し当てるような用途に使われることが多いようです。
まだ検証は不十分ですが、回遊性のサメは地球上の磁場を感じて進行方向を決めていると考えられています。長距離の回遊をしながらもイタチザメがミズドリの生息地を正確に巡ったり、ホオジロザメがメキシコとハワイの中間にあるホオジロザメカフェと呼ばれる特定のスポットに定期的に集まったり、これらは海底の地形と海流の流れの熟知だけでは考えられないことです。
またこのロレンチーニ器官は非常に繊細で、外部から強い刺激を受けるとサメはその感覚が狂ってしまいます。あのホオジロザメでさえも例外ではなく、ダイビングカメラマンはサメが接近してきたときはその鼻先をさわって、うまくサメの感覚を狂わせて危険を回避します(※咬まれた後では手遅れですw)。ペレスメジロザメなどは鼻先を刺激するとおとなしくなって動きを止めることが知られており、うまくすれば寝かしつけるようにしたり、体を垂直に立ててあげたりすることも可能です。
↑砂の中に隠れたアカエイの微弱電流を探知するシュモクザメ(左)、鼻先をさわられるホオジロザメ(中)とペレスメジロザメ(右)
9.側線
サメに限らず魚類や一部の両生類は側線と呼ばれる管状の器官を持っています。これは顔から耳の側を通って体の後方まで伸びていて、水の圧力の変化や振動を感知するために存在します。とくに魚がもがくときにでるような低周波、さらにリズムが不規則な音に敏感で、ケガをして弱った魚が付近にいるとすぐにそれを探知してやってきます。
人間は五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)を持っていますが、サメはこの側線とロレンチーニ器官のために、合わせて七感を駆使して生きている非常に優れた生き物です。何億年もほとんど姿を変えずに生きてきたこともうなずける、生き物としてひとつの完成形だといえるでしょう。
サメの繁殖
魚類というと、メスが産みつけた無数の卵にオスが精子をかけるような方法をイメージするかもしれませんが、サメでこの方法をとる種類は実はひとつもいません。みな生殖器を持っていて、体内受精をします。サメは漢字で「鮫」と書くとおり、交わる魚、つまり交尾をする魚なのです。
↑ネムリブカの交尾。オスがメスの胸ビレに噛みついて体を固定している。
交尾後はもちろん卵を産むわけですが、400種類以上いるサメはその方法も非常に多彩です。いくつか例を出して紹介しますと、
①卵生種
ネコザメやナヌカザメのような卵生種はなるべく水の流れがあるきれいな場所を選んで、産み出した卵を岩場やサンゴなどにくっつけます。固い外皮に覆われた卵の中で胎仔は成長し、成熟すると自ら外皮を破って出てきます。
②卵胎生種
ホオジロザメ、シロワニ、ジンベエザメ等ほとんどのサメがこれにあたります。自分の体内で卵を孵して、胎仔がある程度成長してから体外に放出します。なので外からみれば哺乳類のように子供を産むのと変わりがありません。一番危険が多い卵の時期、生まれたての稚魚の時期を安全な母親の体内で過ごすため、自然界においてはかなり安全で確実性の高い繁殖方法といえます。
体内での稚魚の過ごし方はそれぞれ独特で、生まれてすぐに体外に出ていくもの、そこに留まって母親の膣内の分泌物で成長するもの、ほかの稚魚や未成熟卵を食べて成長するものなど様々です。ホオジロザメやシロワニは膣内の中からすでに激しい生存競争が始まっているわけです。
③胎生種
オオメジロザメなどがこれにあたります。なんとこのタイプの場合は、膣内で卵からではなく子供の形で生まれます。しかも哺乳類のようにへその緒を持っており、親から栄養分を直接もらうことによって成長していきます。
↑サンゴに結び付けられたナヌカザメの卵(左)、胎生のサメの腹を割いた写真(右)
サメの人間に対しての危険性
サメに対して人間が抱くイメージといえば「人食い」でしょうか。しかしこれはサメといえばホオジロザメしか知らないような人間が作り出した虚像であると言い切れます。400種類以上いるサメの中で人間に危害を加えた事例があるのは10種類程度。しかも縄張りに入った、自らちょっかいをかけた、などの人間側の不注意がなければ襲ってこないような種も多く、そういった事例を除けば、積極的に襲ってくるサメの種類はかなり限定されます。
人間にとって危険なのは主に、ホオジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメです。これらは大型な上に比較的沿岸にまで現れるため、遊泳やサーフィン、潜水漁をする人間と遭遇する可能性があります。あとアオザメやヨゴレも非常に危険ですが、外洋性のサメのため遭遇する機会はまずないでしょう。ほかにシュモクザメとシロワニの危険性も唱えられていますが、基本的にはおとなしく臆病なサメです。至近距離で興奮させてしまうような不幸がない限りは比較的安全といえます。
確実にサメに襲われない方法というのは「水に入らない」ぐらいしかありません。襲撃される確率を少しでも下げるには、
1.出血した状態で泳がない
2.傷ついた魚を携帯したまま泳がない
3.ネックレスなどの光るアクセサリーをつけたまま泳がない
4.朝夕のサメの活動が活発な時間に泳がない
5.濁った海で泳がない(サメの接近に気が付けない、サメもエサと人間を誤認しやすい)
6.サメを見つけてパニックになって水面で暴れない
7.小型のサメでも、こちらから絶対に刺激しない
8.サメの目撃情報が多い海での遊泳は控える
ぐらいでしょうか。しかしこれらのことはあくまで確率を下げるってだけで、確実に襲われない保障にはなりません。
ただ、必要以上にサメに対して恐怖を抱くのは無意味であることは理解していただきたいです。日本ではこの50年間で報告されているサメ襲撃事故は10数件。日本全国の海水浴客・潜水業者の50年分の延べ人数は何百億、何千億人にのぼります。あなたがサメ襲撃にあう確率は天文学的に低いことがわかるでしょう。まれに「サメが怖いから海で泳ぎたくない」という意見を聞きますが、道を歩いていて車に跳ねられる確率の方が段違いに高いです。
↑6メートルまで成長するホオジロザメ(左)、沖縄などに生息するイタチザメ(中)、淡水にも侵入可能で貪欲なオオメジロザメ(右)
人間に危険のあるサメのピックアップ動画:
サメが殺した人間の数を他の動物やモノとくらべてみた動画:
サメの保護
サメは海の中では限りなく頂点に近い位置にある生き物です。そういった種は自然の中では個体数が少なく、繁殖能力も低い傾向にあります。サメについてもそれは例外ではありません。
中国を中心としたアジア諸国でフカヒレの需要が高まったことによって、サメの乱獲が促進されて、その個体数は近年減少傾向にあります。そのため世界中でサメを保護する法整備の動きが進んでいます。
アメリカではスポーツフィッシングにルールが追加、(1隻につき1尾まで、135cm以上の個体のみ捕獲許可が下りる)EUではフカヒレ目的のサメ漁を全面禁止、オーストラリアではサメ保護のために特定海域が侵入禁止になるなど、先進国を中心にサメ保護の流れが作られています。あの凶暴なイメージのホオジロザメでさえも、ワシントン条約で保護の対象になっています。
しかし発展途上国ではいまだにフカヒレの乱獲が続けられており、船の上で生きたサメのフカヒレだけを切り落として本体を海に捨てる、フィニングが行われています。
日本もサメを水産資源として活用している国のひとつであるため、海外諸国からよく槍玉に挙げられることがあります。日本で水揚げされるサメの9割を宮城県の気仙沼市が占めていて、そのうちの8割以上がヨシキリザメです。ヨシキリザメは国際自然保護連合(IUCN)の「保全状況の評価リスト」における準絶滅危惧種に指定されていますが、個体数を減らしているという状況証拠が非常に乏しく、その点で保護団体と漁業関係者とで論争の種になっています。
日本側の漁業関係者の主張は以下のとおり。
・マグロ延縄漁の混獲でとれたサメだけを水揚げしており、収穫量は毎年変化なし、数が減少している兆しはない
・フィニングは行っておらず、肉・皮・骨まで全てを水産資源として活用している
しかし、諸外国では「サメを水揚げしている」という点だけで残虐なフィニングのイメージを持つ人が多く、サメ漁全てを否定する動きをとる団体も多くあります。最近ではラッシュ・ジャパンがフカヒレ漁反対キャンペーンを打って話題になりました。
サメ関連アイテム
磁気サメ忌避ブレスレット
磁場の乱れを嫌がるサメの性質を利用したブレスレットです。柔軟性のあるシリコンバンドを採用することにより使用感と快適感を高めています。ただしかなり強力な磁気を発生させるため、電子機器に30cm異常近づけると影響を与えてしまう可能性があるため注意が必要です。
ほぼ命がけサメ図鑑 沼口 麻子
近年の日本のサメ業界の中ではナンバーワンと言ってもよいぐらいに知名度がある、シャークジャーナリスト・沼口麻子氏の著書。日本だけでなく世界中を巡ってサメと触れ合ってきた経験を活かし、サメの本当の姿をありのままに書き綴った図鑑。砕けた日本語でわかりやすく解説されており、レビューの評価も非常に高い。
世界サメ図鑑 スティーブ・パーカー
動物学を学び理学士号を取得したスティーブ・パーカーの著書を、魚類の系統分類学を学んだ仲谷一宏が監修したもの。写真は多いが掲載されているサメの種類が少なく、どちらかというとライトユーザー向け。ディープなサメマニアにとってはやや物足りないかもしれない。
サメガイドブック
アンドレア フェッラーリの著書。前半は80ページに渡りサメの生態や歴史、人とのふれあいについて書かれており、後半はサメの種類ごとに図鑑のように丁寧に解説している。サメ図鑑としては大変充実していてユーザーレビューの評価も高い。ただしエイを含めたたくさんの種類のサメを網羅しているぶん、ひとつひとつの種についてはやや描写が浅いところもある。
サメ関連 参考サイト
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